変わりゆく「家族の形」と住まい

query_builder 2026/01/15
コラム
実家を受け継ぐ

実家に戻るという選択が、これからの住宅の価値を変えていく


戦後の日本では、「長男以外は結婚したら家を出て、新しい家族の住まいをつくる」という流れが、ごく自然なものとして共有されていました。

親世代と子世代は別々に暮らし、子どもはやがて独立し、家は長男家族によって次の世代へ引き継がれていく。

そうした家族像と住宅の関係は、長いあいだ“当たり前”とされてきました。

しかし近年、その前提が少しずつ揺らぎ始めています。

進学から就職、結婚の時期、働き方、子育ての考え方、そして住まいの選び方。

それらが変化する中で、「家族の形」と「住宅」の関係も、静かに、しかし確実に変わってきています。

この記事を書いた人

宮下 和大 / Takahiro Miyashita

一級建築士 / 一級建築士事務所 宮下建築 開設者
らくがき設計事業部 主宰(静岡県・伊豆の国市)

大工歴50年以上の父とともに工務店を運営し、「らくがきからはじまる家づくり」をコンセプトに 、新築住宅・リフォーム・リノベーション・タイニーハウス・中古住宅+インスペクションまで幅広く手がける一級建築士。

住宅はもちろん、社寺などの非住宅建築にも対応し、設計から施工まで一貫した家づくりを行っています。

私たちが大切にしているのは、施主の想いを最大限に生かす“施主主導の設計”。
間取りの検討から素材選びまで、施主が「自分で設計した」と実感できる家づくり体験を提供しています。
デザインだけでなく、コスト・断熱・耐震など建築の基本性能もしっかり押さえ、ライフスタイルに合った
“ちょうどいいサイズ”の住まいをご提案。地元工務店ならではの柔軟な対応と長期的なサポートで
安心して暮らせる家づくりを目指しています。

一級建築士(大臣登録361765号) 既存住宅状況調査技術者(インスペクター) 木造住宅・リフォーム設計 / 監理 伊豆の国市・函南町・伊豆市・三島市・裾野市・御殿場市・沼津市.etc
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日本の家族は、いまどう変わっているのか


まず前提として、日本の家族の形は大きく変化しています。

・晩婚化・非婚化の進行

・共働き世帯の増加

・子どもを持たない選択

・親の高齢化と介護の現実化

これらは統計としても広く知られていますが、住宅の現場に立つと、より具体的な形で表れてきます。

「家を買うタイミングが分からない」 「今後どこで暮らすのが正解なのか迷っている」 こうした声は、若い世代ほど多くなっています。

住宅は、もはや“人生の型”に当てはめて建てるものではなくなりつつあるのです。


空き家が増える一方で、住まいに困る人がいる矛盾


一方、日本では空き家が増え続けています。

親が高齢になり、住まいを使いきれなくなった家。

子どもが都市部へ出て、そのまま戻らなくなった実家。

管理されないまま、少しずつ傷んでいく住宅。

「住まいが余っている」のに、「住まいに悩む人がいる」。

この矛盾は、家族の形と住まいの関係が、これまでの枠組みでは説明できなくなっていることを示しています。





ある夫婦の選択 ― いったん実家を離れ、そして戻る


ここで、よくあるひとつのストーリーを紹介します。

都内で働いていたAさん夫婦。、結婚を機に賃貸マンションで暮らし始め、共働きで忙しい日々を送っていました。

当初は「いずれは家を買おう」と考えていたものの、住宅価格の高騰や将来の不安もあり、なかなか踏み切れません。

そんな中、きっかけは思いがけず訪れます。

地方に住む親の体調不良でした。

「しばらく実家に戻れないか」 そう声をかけられ、夫婦は話し合いを重ねます。


実家はある。でも“そのままでは住めない”


久しぶりに戻った実家は、懐かしさと同時に、現実を突きつけてきました。

間取りは昔の家族構成のまま 、冬は寒く夏は暑い 、収納は足りず設備も古い。

「ここで暮らすイメージが持てない」 それが、最初の正直な感想でした。

実家は確かに“家”として存在しています。

しかし、それは今の家族の形に合った住まいではなかったのです。


家族の形が変われば、家の使い方も変わる


親世代が建てた家は、 子どもが複数いる前提で、親が家事の中心を担う前提 、さらには夫が1人外で働く前提 といった価値観のもとでつくられています。

一方、Aさん夫婦の暮らしは、 夫婦2人+将来は子供1人の計3人 、家事は親子・夫婦みんなで分担、さらに仕事は共働きという全く異なる前提の上に成り立っています。

つまり、家が悪いのではなく、前提が変わったのです。


「建て替え」ではなく「リフォーム」という発想


当初、夫婦は建て替えも検討しました。

しかし、費用・時間・手続きのハードルは高く、現実的ではありませんでした。

そこで出てきたのが、 中古住宅を活かし、今の暮らしに合わせて整えるという選択です。

1)間取りを整理し、広く使う  2)断熱・耐震を見直す  3)設備を今の暮らしに合わせる

「壊して新しくする」のではなく、 「リフォームして暮らしやすく」という考え方でした。


実家リフォームは、家族関係も変えていく


リフォームが進む中で、夫婦の意識も変わっていきました。

「この家で、これからの時間を重ねていく」

「親が大切にしてきた家を、次の世代として引き継ぐ」

単なる住宅改修ではなく、 家族の歴史をつなぐ行為として、住まいを見直す時間になったのです。

親世代にとっても、 家が空き家にならずに済んだこと、子世代が戻ってくる喜び という、数字では測れない価値が生まれました。





空き家問題の「答え」は、暮らしの中にある


空き家問題は、行政や制度だけで解決できるものではありません。

それは、家族の形が変わった結果として生まれている問題だからです。

実家に戻る、という選択。 そこに少し手を入れ、今の暮らしに合わせるという工夫。

それは特別な解決策ではありませんが、 現実的で、持続可能な答えのひとつです。


中古住宅リフォームが持つ、これからの意味


中古住宅のリフォームは、 コストを抑えるための手段 古い家を直す行為 として語られがちです。

しかし実際には、 変わり続ける家族の形に、住まいを合わせ直す行為と言えます。

新築か中古か、という二択ではなく、 「今の暮らしに合っているか」という視点。 それこそが、これからの住宅選びに求められる考え方ではないでしょうか。


家族の形が変わるから、住まいも変えていい


日本の家族の形は、これからも変わり続けます。

そのたびに、新しい家を建てる必要はありません。

今ある住まいを、 今の家族に合わせて整える。 それは、無理のない選択であり、 同時に、空き家問題への現実的な向き合い方でもあります。

実家に戻ることは、後退ではありません。

新しい家族の形を、既存の住まいの中でつくり直すこと。

中古住宅のリフォームは、 そんな「これからの家族」と「これからの住まい」をつなぐ、大切な選択肢になっていくはずです。

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