注文住宅市場の現状を工務店目線で読み解く
家づくりの入口が変わった時代に、地方工務店はどう生き残るか
かつて、家づくりの相談はとてもシンプルなものでした。
「親に相談する」「親戚の大工に聞く」「近所の工務店を紹介してもらう」。
地方においては、それが当たり前のスタート地点でした。
ところが現在、家づくりの入口は大きく変わっています。
相談相手は、親でも知人でもなく、スマートフォンと検索エンジンです。
この変化は、施主側にとっては「情報にアクセスしやすくなった」進化である一方、 地方の注文住宅市場、とりわけ中小工務店にとっては、 構造的な不利を生む転換点でもありました。
本コラムでは、
注文住宅市場が今どのような状況にあるのかを業者側目線で整理し、
地方工務店が直面している課題と、
そこから一歩先へ進むための可能性について考えていきます。
宮下 和大 / Takahiro Miyashita
一級建築士 / 一級建築士事務所 宮下建築 開設者
らくがき設計事業部 主宰(静岡県・伊豆の国市)
大工歴50年以上の父とともに工務店を運営し、「らくがきからはじまる家づくり」をコンセプトに 、新築住宅・リフォーム・リノベーション・タイニーハウス・中古住宅+インスペクションまで幅広く手がける一級建築士。
住宅はもちろん、社寺などの非住宅建築にも対応し、設計から施工まで一貫した家づくりを行っています。
私たちが大切にしているのは、施主の想いを最大限に生かす“施主主導の設計”。
間取りの検討から素材選びまで、施主が「自分で設計した」と実感できる家づくり体験を提供しています。
デザインだけでなく、コスト・断熱・耐震など建築の基本性能もしっかり押さえ、ライフスタイルに合った
“ちょうどいいサイズ”の住まいをご提案。地元工務店ならではの柔軟な対応と長期的なサポートで
安心して暮らせる家づくりを目指しています。
家づくりのスタート地点は「親への相談」から「ネット検索」へ
以前の家づくりは、 信頼の継承から始まっていました。
・親が建てた工務店
・親戚が付き合いのある大工
・地域で名前の知られた工務店
こうした関係性の中で、 工務店は自然に「最初の相談先」になっていたのです。
しかし現在多くの施主は、まず” X ”や” Instagram ”での検索からスタートします。
「注文住宅 比較」 ・「新築 おすすめ」 ・「住宅 性能」 ・「ZEHとは」
この時点で、検索結果に並ぶのは、 圧倒的にハウスメーカーの情報です。
資本力を背景に、
・SEO対策
・広告出稿
・大規模展示場
・統一された商品説明
を整えた企業が、 家づくりの“最初の候補”を独占する構造が出来上がっています。
地方でも進む「注文住宅=ハウスメーカー」という認識
この変化は、都市部だけの話ではありません。
地方においても、注文住宅市場のシェアは 徐々にハウスメーカー主流へと移行しています。
その理由は明確です。
・情報が分かりやすい
・性能や価格が「見える化」されている
・大手という安心感がある
一方、地方の中小工務店は、
・情報発信が弱い
・性能や仕様が言語化されていない
・比較の土俵にすら上がれていない
という状況に置かれがちです。
結果として、 「工務店は選択肢として認識されない」 という現象が起きています。
中小工務店が抱える構造的な問題
この流れの中で、地方の中小工務店は いくつかの深刻な課題を抱えています。
① 昔ながらの建て方から抜け出せない
長年の経験と勘を頼りに、
・断熱は最低限
・気密は意識していない
・耐震は「大丈夫だろう」
という建て方を続けてきた工務店も少なくありません。
決して手抜きではありません。 しかしそれは、 性能が数値化される時代には通用しにくい建て方になりつつあります。
② 単独では高性能住宅をつくれない現実
高性能住宅をつくるには、
・断熱設計
・気密施工
・各種計算・申請
・部材・設備の選定
といった、専門的な知識と体制が必要です。
中小工務店が単独でこれらをすべてカバーするのは現実的に難しい場合が多く、
・設計力不足
・情報不足
・人手不足
が、高性能化への壁になっています。
結果として、 「やりたくてもできない」 「必要性は分かっているが対応できない」 という状態に陥っている工務店も少なくありません。
③ ZEHや省エネ制度への対応が後手に回る
ZEH、長期優良住宅、省エネ基準。
制度は年々高度化しています。
しかし、
・制度を理解する人がいない
・申請業務が負担
・実績がない
といった理由から、 対応を後回しにしてしまう工務店も多いのが実情です。
その結果、 「高性能住宅を求める施主が、最初から工務店を候補から外す」 という悪循環が生まれます。
ZEHビルダーである地方工務店という存在
一方で、同じ地方工務店でも、 ZEHビルダー登録を行い 断熱・気密・省エネに取り組み 実績を積み重ねてきた工務店 も確実に存在します。
こうした工務店は、
・高性能住宅のノウハウ
・申請・制度対応の経験
・設計・施工の標準化
をすでに一定レベルで持っています。
ここに、 これからの地方工務店の新しい可能性があるのではないでしょうか。
「競争」ではなく「支援」という発想
地方工務店同士が、 限られた市場で競争し続けることは、 決して健全とは言えません。
むしろ、 ZEHビルダー工務店が 他の工務店のサポートに入る という形で、
・設計支援
・仕様の標準化
・申請業務の補助
ノウハウ共有 を行うことで、 地域全体の住宅性能を底上げすることが可能になります。
知り合いの大工さん・工務店に建ててもらいたいけど高性能住宅じゃないと・・・
という方がいれば、「ZEHビルダー設計+腕利き大工施工」2者のチームを組んでもらうことでハウスメーカー以上のものを目指せるのではないでしょうか?
地域にとってのメリット
この仕組みは、 特定の工務店だけでなく、 地域全体にとってもメリットがあります。
・高性能住宅が増える
・空き家・低性能住宅が減る
・施主が安心して工務店を選べる
・地元で家づくりが完結する
結果として、 「地方=遅れている」というイメージを覆すことにもつながります。
工務店の価値は「施工」だけではない時代へ
これからの工務店に求められる価値は、 単に「建てること」だけではありません。
・正しい情報を整理できる
・制度を読み解ける
・施主に説明できる
・他の工務店を支えられる
こうしたハブ的な役割を担える工務店こそが、 次の時代の地方住宅市場を支える存在になる可能性があります。
地方工務店が生き残るための一つの答え
家づくりの入口がネット検索に変わった今、 地方工務店が従来通りのやり方を続けるだけでは、 市場から見えなくなってしまいます。
しかしそれは、 工務店の価値が失われたということではありません。
・地域を知っている
・現場を知っている
・住まい手の暮らしを知っている
この強みを、 性能・制度・情報と結びつけることができれば、 地方工務店にはまだ大きな可能性があります。
ZEHビルダーとしての経験を、 自社だけで完結させるのではなく、 地域の工務店全体に広げていく。
それは、 競争ではなく共存による市場づくりであり、 これからの注文住宅市場における 地方工務店の新しい生き方なのではないでしょうか。
高齢化によって昔ながらの大工が少なくなってきました。
そんな大工が地方工務店にはまだ残っています。
地方工務店で木造工事を回すことは、安心して仕事を任せられる大工を守ることにもつながります。
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