空き家を「持ち続ける」という選択は、本当に合理的か?

query_builder 2026/01/16
コラム
次世代に引き継ぐ

維持コストの現実と、次世代へ負担なく引き継ぐという可能性


日本各地で空き家問題が深刻化しています。

総務省の統計でも空き家率は年々上昇し、地方部では「住めるのに使われていない家」が珍しくありません。

しかし、空き家問題は単に「家が余っている」という話ではありません。

その多くは、相続によって取得したものの、住む予定も活用の予定もない家です。


特に問題になりやすいのが、

・都市部に住み続ける相続人

・地方の実家を引き継いだものの戻る予定がない

・売却もしづらく、活用方法も見えない

というケースです。


今回は、実際のシミュレーションをもとに、 「空き家を持ち続けることのコスト」を可視化しながら、

それならいっそ、若い世代に“ほぼ負担なく”引き継げないのか? という可能性を考えてみます。

この記事を書いた人

宮下 和大 / Takahiro Miyashita

一級建築士 / 一級建築士事務所 宮下建築 開設者
らくがき設計事業部 主宰(静岡県・伊豆の国市)

大工歴50年以上の父とともに工務店を運営し、「らくがきからはじまる家づくり」をコンセプトに 、新築住宅・リフォーム・リノベーション・タイニーハウス・中古住宅+インスペクションまで幅広く手がける一級建築士。

住宅はもちろん、社寺などの非住宅建築にも対応し、設計から施工まで一貫した家づくりを行っています。

私たちが大切にしているのは、施主の想いを最大限に生かす“施主主導の設計”。
間取りの検討から素材選びまで、施主が「自分で設計した」と実感できる家づくり体験を提供しています。
デザインだけでなく、コスト・断熱・耐震など建築の基本性能もしっかり押さえ、ライフスタイルに合った
“ちょうどいいサイズ”の住まいをご提案。地元工務店ならではの柔軟な対応と長期的なサポートで
安心して暮らせる家づくりを目指しています。

一級建築士(大臣登録361765号) 既存住宅状況調査技術者(インスペクター) 木造住宅・リフォーム設計 / 監理 伊豆の国市・函南町・伊豆市・三島市・裾野市・御殿場市・沼津市.etc
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空き家は「何もしなくてもお金がかかる」


まず、空き家を維持するために、 最低限、必ず発生するコストを整理します。


今回の想定は以下の条件です。

築30年の木造住宅

市街化調整区域

居住・賃貸・事業利用なし

最低限の管理のみ


この条件でも、年間でおよそ28〜30万円の維持コストが発生します。


内訳は以下の通りです。

固定資産税・都市計画税:約9万円

火災保険:約2万円

草刈り・換気・見回りなどの管理費:約7万円

雨漏り・シロアリ等を想定した修繕積立相当:約10万円


つまり、何も活用しなくても、毎年30万円前後が確実に消えていくという現実があります。


5年、10年で見ると「静かな出血」になる


この維持費を、時間軸で見てみます。


5年間維持した場合

約30万円 × 5年 → 約150万円


10年間維持した場合

約30万円 × 10年 → 約300万円


この間、 建物の資産価値はほぼ確実に下がり続けます。

築30年の時点ですでに建物価値は限定的ですが、 築40年を超える頃には、

「建物は価値ゼロ、解体前提」として扱われるケースが大半です。


つまり、 お金を払い続けているのに、

・資産価値は増えない

・むしろ出口は狭くなっていく

という状況が生まれます。


なぜ「売れない」「動かせない」空き家が増えるのか


空き家が放置される理由は、所有者の怠慢ではありません。

・思い出があり、すぐには手放せない

・市街化調整区域で売却が難しい

・解体費用を考えると踏み切れない

・次にどう使われるのか分からない不安

こうした心理的・制度的ハードルが重なり、 「とりあえず持ち続ける」という選択が取られがちです。


しかし先ほど見たように、 「とりあえず」は年間30万円の判断でもあります。


視点を変える:「売る」ではなく「引き継ぐ」


ここで一度、視点を変えてみます。

空き家問題を 「いくらで売れるか」 「いくら損をしないか」 という視点だけで考えると、選択肢は狭まります。


しかし、 自分がこれから10年で払う300万円を、 次の人に住んでもらうために使えないか?

と考えると、景色が変わります。


若い世代にとっての「最大の壁」は何か


比較的若い世代、特に30代前後の家族にとって、 住宅取得の最大の壁は次の3点です。

・初期費用(頭金・諸費用)

・住宅ローンへの心理的ハードル

・土地取得費


一方で、地方には

・家そのものはある

・立地も生活可能

・ただし「古い」「条件が特殊」

という物件が多く存在します。


ここに、需給のズレが生まれています。


「買主側ほぼ負担なし」で引き継ぐという考え方


例えば、次のようなスキームを考えることはできないでしょうか。

・売買価格を限りなくゼロに近づける

・もしくは無償譲渡に近い形を取る

その代わり、買主は

・「住む・直す」ことを前提とする


所有者側から見れば、

・10年持てば300万円消える

・早期に手放せば、その出血を止められる


買主側から見れば、

・土地取得費がほぼゼロ

・建物は最低限住める

・リフォーム費用に集中できる


というどちらにもメリットのある関係が成立します。


若い世代にとってのメリット


この形で空き家を引き継ぐことは、 若い世代にとって決して「妥協」ではありません。

・土地代がかからない

・ローン額を抑えられる

・自分たちの暮らしに合わせて改修できる

・将来、手放す判断もしやすい


特に、

「新築一択ではない」

「地方での暮らしも選択肢に入る」

という世代にとっては、現実的な選択肢になります。


所有者側にとっての本当のメリット


所有者側のメリットは、 金銭面だけではありません。

・管理責任から解放される

・近隣への迷惑リスクが消える

・将来、子や孫に負債を残さない


空き家は、 持っているだけで「見えない責任」を伴います。

それを、 次の世代につなぐ形で手放すことは、 一つの社会的な役割とも言えます。


空き家問題は「誰かの善意」では解決しない


重要なのは、 この仕組みを「善意」や「我慢」にしないことです。

・若い世代が無理をしない

・所有者が損を抱え込みすぎない

・行政・専門家が間に入る


こうした前提があってこそ、 空き家は「負動産」から「資源」へと変わります。


空き家は、次の世代への入口になり得る


空き家を持ち続けることは、 毎年30万円前後のコストを静かに払い続ける選択です。


一方で、 そのコストを「次の世代の住まいづくり」に振り向けることで、

・空き家が減る

・若い世代の住宅取得ハードルが下がる

・地域に新しい生活が生まれる

という好循環をつくることになります。


空き家問題の解決策は、 「壊す」か「売る」かだけではありません。


負担なく引き継ぐという第三の選択肢を、 これからもっと真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。

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